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「メディア表現学科特別講義A」~ゲスト講師・新海誠氏~(7/1)

2009年07月01日 映像表現学科 イベント 特別講義

さまざまな業界からゲストをお呼びし、講義を行っていただく「メディア表現学科特別講義A」。

今年の第一弾は、なんと! 新海誠氏が来校されます。

 

「メディア表現学科特別講義A」
7月1日(水) 14:40~ 1114教室(1号棟)
ゲスト講師 新海誠
司会 大塚英志(本学メディア表現学科教授)
※一般の方の聴講可となっております

 

新海氏より講義内容のメッセージを送っていただきました(下記)。ぜひ、ご清聴ください。

 

僕は現在アニメーション映画監督を仕事にしていますが、デビューが個人制作だったからか(「ほしのこえ」という作品です)、今でも「アニ メーションを作りたいのですがどうすれば良いのですか?」という質問メールを良くもらいます。そのたびにいつもすこし不思議に思うのです。アニメの作り方 なんてネットでも本屋でも感単に見つかるはずだし、パソコンは皆持っているのだろうし、後はただ作りたいものを好きなように作ればいいんじゃないか、と。 作りたいものが見つからないのならば作らなければいいし(他にも楽しいことはたくさんあるでしょう)、作りたいものがあるのならば紙にでもパソコンにでも 向かって絵を描き始めればいい。だから誰かにそういう質問をされるたび、正直に言えばすこしイライラしつつ「作りたいように作ればいいと思いますよ」と答 えるのです。
しかし一般的には、プロとして現場に入って戦力になるにはそれではダメだ、ということになっているのかもしれません。アニメーターになるには動画や原画 を何年も学ばなければいけないし、背景美術を描くにはデッサンとかパースとかをやらなければいけない。演出もCGも撮影も、それを仕事とするにはそのため の知識と技術が要る。考えてみれば僕自身の現場に入ってくれる人たちも、ほとんど全員がそういう技術を持った人たちです。
それでも、と僕は思います。少なくとも僕自身には、最初に「アニメーションを作りたい」と思ったときに「必要とされている知識や技術」はありませんでし た。作りたいもののイメージだけがあって、それを絵コンテらしきものにしてパソコンで時間軸に並べたムービーにしてみただけです。しかしとにかくもそれが 「作品」と呼べるようなものを自分が産み出した最初でした。その時の喜びは今でも持続しているし、その時やったことはプロとして仕事をしている今の場所ま で──今振り返ると──まっすぐにつながっていました。だから僕は、「素朴でもただ作ってみる」ということがスタートとしては一番大事だと今でも思ってい ます。

従って本講義では専門的な知識や技術をお話しするわけではなく、僕自身がどのようにアニメーション制作に取り組んできたかを実際の作品の データを交えて見ていただきます。映像の仕上げ行程よりは最初の制作開始部分に重点を置いてお話しします。技術的にはアドビのマニュアルにあるチュートリ アルの域を出ないようなものかもしれませんが、考えてみると僕自身にとって「アニメ制作の教科書」はまさにソフトウェア付属の散文的なチュートリアルだっ たように思うのです。

 

 

新海 誠(しんかい まこと) プロフィール
1973年生まれ。長野県出身。中央大学文学部国文学科卒業。ゲーム会社在籍中よ り短編アニメーションの個人制作を開始。2002年に発表したフルデジタル作品『ほしのこえ』が高い評価を受け、一躍注目作家に。2004年に初の劇場長 編作品『雲のむこう、約束の場所』、2007年に『秒速5センチメートル』を発表。作品は国内外で多数の賞を受賞。映像作品のほか、小説の執筆など、さま ざまなメディアで表現活動を行っている。

(『新海誠美術作品集 空の記憶』(講談社)より抜粋)

新海誠氏 個人サイト 「Other Voices -遠い声-」