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第2回 『学長の庭』 2009年04月14日

2009年05月23日 学長の庭

齊木学長

今日の『学長の庭』のテーマは「弟子と先生」ということでお願いしたいと思います。尹君は大学に入って何年?

尹助手…

学部と大学院で今年7年目です。

齊木学長…

7年前に環境デザイン学科に入ってきて、小山先生のどの授業が刺激になったの?

尹助手…

デザイン史です。

齊木学長…

小山先生といえば音に対しての刺激ですか?

尹助手…

はい。小さい頃から、音楽に興味がありました。

小山教授…

領域的に言うと、音はとても早い時期にいろいろなことが実験される領域という ことができます。たとえば 建築やプロダクトやファッションのようなデザインの領域で新しい考え方やイメージが出てくる前に、音の領域ではもう始まっています。音や哲学の領域で新し いものが見つかって、それがやがてアートの領域に反映されて、それからデザインの領域に広がっていきます。先のことを読もうと思うと、哲学や音は外せない ものです。

齊木学長…

哲学や音楽にしても、科学技術の前に存在するものかと思いますね。音は新しい先端のものと、変わらないものの両極を持っていますね。

小山教授…

言葉より前に音がありましたし、人間にとってとても根源的なものですね。

齊木学長…

突然大学の話になるけど、これまで音を学ぶ学科を取り入れるチャンスが無かっ たんですが、音を求めてい る人は多く、卒業研究にする学生もいました。山陰の漁村の生活の音や、尾道で船や列車の音の認識など研究したり、環境のラボで鉄板の上を歩かせたり、音理 論を体感されることを卒業制作でやっていました。論理的にとらえるのではなく、制作する側面と理屈でとらえる側面がありました。

小山教授…

とても面白い研究ですね。尹君は音楽ですが、私は学生時代にはエンジニアリン グや環境工学が好きで、音に関する研究をしたいと思っていました。音楽ホールの設計をするときに、様々な音に関わる現象が数値に置き換えられて、数式で明 らかになってくるのがすごく面白かった。 環境工学が一番やりたかったことのひとつです。しかし、自分で建築を作ろうと思うと、過去の歴史を学ばないと何も作れないと思ったのがきっかけで、歴史の 研究者になりました。 もしもあの時に戻れたら、そっちもやってみたいです。齊木先生は?

齊木学長…

私は、植物形態と分類学。結局、集落や街の空間の形や分類がテーマとなり、学生時代から変わらず求めています。

小山教授…

形態学と言えば、話は変わりますが、ゲーテの木というのがあるんです。ゲーテ の研究者からもらって家で 育てています。こんなギザギザの葉っぱが出て、それがあるときに先の部分がジャンプして地面に落ちて子供をつくる。しかも同じ相似系のものをつくって いくことから、ゲーテの木と呼ばれているのかもしれません。とても弱い木です。

齊木学長…

尹君はもともと何になりたかったですか?

尹助手…

もともとは住居学を勉強したいと思ってました。でも住居学科は女子大の学科 で、私学で探してみたら、この 大学をみつけて、吉武先生や鈴木先生に教えてもらえるかな?と思って来たんですが、小山先生の授業の初っ端から違うものも面白そうだなと思いました。音楽 理論に興味を抱いてそっちの方向へいきました。

小山教授…

彼はもともと、教会でピアノを弾いていたので、素養があったんだと思います。

齊木学長…

いいですね。小山さんからの指導は?

尹助手…

ゼミからです。

齊木学長…

学部のときの尹君の卒論も刺激的だったね。音楽っていうのは、論理的にも数学 的にもちゃんと組み立てができて、科学の先端の領域ですよね。ものすごく論理的で科学的で筋道がしっかりする構成力。過去のものを活用できて、新しい領域 へ踏み出せる、科学的なものと思うんです。 私は将来、うちの大学では扱わなければならないのではないかと思う。音のない生活はないから。

小山教授…

やなぎ先生の演劇の授業も面白いですね。

齊木学長…

身体や音、私たちに最も求められているもので新しい刺激をね。これからの音のテーマは何でしょう?

小山教授…

何でしょう?プログラミングや音を実際作ったり、いままでと違ったものを数値化したり、何かができると思う。

齊木教授…

実験をどこかで始めたらいいなと。カフェでの音楽に、何かが流れていると気づかせるとか。音の刺激を常にどこかに巻き起こしてくれたらいいな。その辺はどうでしょう?

小山教授…

尹君は、インスタレーションを考えてるんでしょ?これまでは理論だけなので、実際に何かつくらないとね。

齊木教授…

そうですね。アイデアがでたら、作らないと。楽しみがあって、すぽんと飛ぶこともあるけど。刺激をうる仲間がいたらいいなと思う。図書館で何かやりましょうか。

小山教授…

この大学は、弦楽でもロックでもいいから、生で聞くチャンスがあまりないの で、そういう機会をつくるこ とは重要だと思います。杉浦先生と大学院の芸術工学基礎論の授業「音の磁場」を2年やって、すごく面白かった。ただ、音は本にするのは難しいから、書籍と しては残らなかったのですが、授業としてはとても面白かったです。 ガムランの人たちや、インドネシアの女性のダンスを、出雲の熊野神社にツアーと一緒に行って聴いたり、大学で三味線を弾いてもらったり、電子音楽で360 度立体的に聴いたり。耳は左右にしかないのに、そのヘッドフォンをすると、前や後ろに音が定位して言葉にならなかった。 杉浦先生には、もっと音と音楽の授業をしてもらいたいです。

齊木学長…

キャンパスの中で音をやろう。風が吹くような音、北から吹く風をとらえて、筒をおいたり、うなる音響のものを置いたり。音楽としてのものではなく、実験的な音がどのように体内化するかとか。

小山教授…

生音で良いものがあるといいですね。石井先生や槌橋先生も音楽を映像にした作品を作っていらっしゃいますし、音楽にはみんなが関心があると思います。

齊木学長…

尹君の音をテーマとした仕事はこれからだな。音に魅力を持っている人の出会い の場ですね。大学には音を表現する場がなかなかなかった。それを楽しむとか自分たちの楽しむ場とすればいい。最大の共通点じゃないかと思いますね。 図書館という、書物でいろんなものを集約したものを超えて、図書を超える音を含めた情報発信の場。情報やメディアが発信できる場にしたいですね。

小山教授…

それは鈴木(明)先生のご専門ですね。図書館そのものが単なるアーガイブでな く、うちの図書館もぜひ変 わってほしい。学園祭で学生がよくバンドをやってるけど、僕なら図書館でやらせろと言うと思う。音が出せる場所として、床はコンクリートでいいから、もう 少し大きな場所があるといいですね。

齊木学長…

音の実験を今年から始めましょう。特効薬はなく、こつこつですね。安心したら ダメだけど、元気出るネタ がないと。小山さんや私は疲れが出てきてるけど、今年助手になった尹君や鎌田君など卒業生たちが体内化した空間や空気が新しいものを生み出してくれればい いなと、期待しています。 弟子は先生から離れて何かするというのも大切です。チャレンジしてもらえればと思います。 尹君がこの大学に望むことは?あと10年先。

尹助手…

先ほどの話題になりますけど、いろんなところで、簡単にライブが行われるとか。生演奏で聞く場所がピンポイントでできればいいし、実験したいですね。

齊木学長…

バウハウスの話になりますが、音とかいろんな実験ができたじゃないですか。ダンスとか。音と空間の関係とか。今の時代目指す教育の体系は?

小山教授…

バウハウスの頃からずっと今まで連続的に世界は変わっているのではなく、節目 がありますよね。それはコンピュータです。大きなクレバスのような溝があって、われわれはそれから先の世界にいて、あらゆるものが変わったはず。 リアリティの意味もかわっていて、われわれは再びリアリティを求めてるけど、リアリティが何だったのかがわからなくなっている。その切れ目をうまくつなが ないといけない。センターでは現代のリアリティについて、多木先生と研究をすすめています。

齊木学長…

バウハウスが生まれて、活動の期間は短かったけど、時代が求めたものがあった 訳ですよね。ある意味アバンギャルドだったけど、リアリティがあった。 実 験をして分野を超えた新しいものを求めて自分達の中におさめず、問いかけて引き戻すやり取りをしたというのは、リアリティを求めた動きだったと思うんです よね。コンピュータが身近な道具になって、10数年前にネットが広がって、あらゆるものがリアリティがあるのか。その溝をどう埋めるかというときに、九州 芸工大が生まれ、ついでうちの大学が生まれています。その時代にできたことと、今の時代が求めることに溝がある。どう埋めればよいのか。

小山教授…

いまリアリティがどうなのかということは、音楽家や現代アートの作家たちは敏感に感じ取っていて、それを作品にフィードバックしている。それはとても参考になります。

齊木学長…

その時に刺激を受けたデザインの時間を、もう一度リアリティを求めるととも に、時間軸でバウハウスから今日までの溝が埋まらないのかと思っています。 私 は10年間、田園都市研究をやって、ウイリアムモリスの社会同盟たちの田園都市建設活動を結果的にガーデンシティー舞多聞で実験することになった。ガーデ ンシティー100年を記念した国際会議を開催し、100年前って古いものではなく、バウハウス以前にはイギリスの社会主義同盟で活動したハワードがいて、 ウイリアムモリスがいて、その後の理念だけでなく教育と科学技術の形に現れたのがバウハウスだと思う。

小山教授…

モリスは、人間は労働しなければならない、と考えていました。機械は人間がたのしく人間らしく働くために召使いとしてあるのだ、と。働いて楽しいのはいいですね。

齊木学長…

コンピュータが入ってきて、新しい情報がやってきて、バウハウスのときの変革 と似た今の時代の変革を求められている。しかしチャンスなのにアーティストや哲学者はあまり発言しないですよね。 考えてみると、バウハウスの大量生産や社会だったりするけど、私たちの分野で考えると、バウハウスを超えるような時代にチャンスが巡ってきてるんじゃない かと。

小山教授…

そういう意味だと、たとえばRCA(王立アカデミー、ロンドン)は、社会にか かわる方向で活動していま す。これまではデザインというと、きれいないいものがデザインの対象だったけど、そうではない、ほかのものも呼び起こすこともやっている。デザインノワー ルというキーワードで、刺激を与えるデザインのプロトタイプ(次のきっかけをデザインで考えること)をつくっています。こうしたアーティストや哲学者が何 やっているのかを考えるといいかもしれない。

齊木学長…

10年先ってどうかなと。うちの大学は1989年にできて今年20周年。確実 に年を経てるんだけど、たまたまバウハウスが生まれて今年90年目なんですね、おもしろいなと。 バ ウハウスが生まれたときも時代が変化する革命のときで、戦争のときで、今の時代が持っている社会的な動きが重なっています。RCAとか、面白いことをやっ ているところと連携して、何か良い企画をつくって、情報発信して、10年後の大学30周年、そしてバウハウス100周年を目指してやりましょう。10年先 小山さんはいらっしゃるだろうけど、僕はちょうどいないし。 日本でバウハウスのひずみを議論できるキーパーソンは?

小山教授…

キーパーソンどうしは仲が悪いから。議論ができるかどうかは、わかりません。

齊木学長…

それはそうだけど、僕は田園都市国際会議で、シンポジウムもできて仲間ができた。仲間を集め、バウハウス100周年とその功罪を論議出来たら良いな。さて、尹君は新鮮な今の気持ちを忘れずに、常に先生を健全な批判的なまなざしで見続けてください。

尹助手…

はい。