- 作者情報
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教員 ビジュアルデザイン学科
イラストレーション:寺門 孝之(写真左)
ブック・デザイン:秋山 伸(写真左)
【寺門 孝之プロフィール】
大阪大学文学部美学科卒業 1983年/セツ・モードセミナー卒業 1985年
神戸芸術工科大学 ビジュアルデザイン学科 教授
主な業績
[著書]「Holy Basil」(青土社)2013年/「ANGEL ROSE JEWEL BOAT」(風濤社)2011年/「ぼくらのオペラ」(イースト・プレス)2009年/「てらぴか映画日誌」(風濤社)2007年他単著・共著多数。
[雑誌責任編集]「ローズプラスエクスVol.1 ~ 5」左右社 2010-2015年/「ビジュアルデザイン 1」左右社 2018年 /「芥川龍之介の桃太郎」河出書房新社 2024年/[仕事]角川映画『人間失格』劇中絵画 2010年/ NISSAY OPERA『ヘンゼルとグレーテル』宣伝芸術 2019年等。
[展覧会]作詞家・松本隆とのコラボレーション展「風街ヘブン」神戸市立相楽園 旧小寺家厩舎 2020年/「天国 : 寺門孝之ー天使の画家ー」西脇市岡之山美術館 2020-21年/新作能「或能川ー受胎告知をめぐる夢想の間(あわい)」企画・台本・演出 2023年 湊川神社神能殿 他
【秋山 伸プロフィール】
東京芸術大学美術学部建築専攻修了
神戸芸術工科大学 ビジュアルデザイン学科 教授
主な業績
[作品(デザイン)]「ヴェネチア・ビエンナーレ 2006 ・日本館 藤森建築と路上」カタログ(国際交流基金,2006),大竹伸朗「ドクメンタ 13 マテリアルズ」シリーズ(2012-16), 阿木譲「0g」シリーズ(2013–),伊丹豪「ディス・イヤーズ・モデル」(2014),「鈴木理策写真展 意識の流れ」展示グラフィック+カタログ(2015)
[作品(著作)]「Documenting and Presenting the Works of Shinro Ohtake2012–2015」(ブルノ・ビエンナーレ国際展,2016)
[受賞]「世界で最も美しい本」栄誉賞(ドイツ,2001),「造本装丁コンクール」経済産業大臣賞(グランプリ,2005)審査委員会奨励賞(2001, 2012),「NYADC2020 出版物部門」メリット・アワード(アメリカ,2020)
STORY
制作ストーリー
ビジュアルデザイン学科の寺門教授と芥川賞作家の町田康氏の、90年代初頭からプライベートに継続されていた幻のコラボレーションが2020年代に入って遂に完結し、書籍化された。通常は小説が先にあり、それを元にして挿画が描かれるが、二人の協働の特筆するべき点は、先ず寺門先生のイラストレーションが描かれ、それをもとに町田氏が物語を紡ぐというプロセスにある。眩い光に溢れる天使画で知られる寺門先生の絵と、パンク・ミュージシャンでもあった町田氏による「パンク・ファンタジー」ともいうべき異色のコラボレーション作が生まれた。
書籍化におけるデザインは、同学科教授の秋山が寺門先生からの依頼を受けて担当した。この本は生産においても特異であり、通常の本がたどるような機械による大量生産ではなく、ビジュアルデザイン学科の学生有志が参加して数千に及ぶ部数が手製本によって作られた。
エディトリアル・デザインにおいては、二人の著者のコラボレーションの特異性が表現できるように、絵画と小説が対等に呼応するように編集され、かつ内職的な手作りでしか実現できない製本設計が追求され、それをベースに印刷仕様がデザインされた。
例えば本文は、共同作業が2つの時期に隔たることから物語の前半と後半の雰囲気が大きく異なる事を反映して、判型も紙も印刷もデザインも異なる2分冊となっている。その2冊の間には、完結した物語の全体を示すかのような寺門先生描き下ろしの絵画が折り畳まれた大判ポスターとして挿入されている。寺門先生の絵画の特徴の一つとして木枠に張られた薄く繊細な布の両面が仕上げられるという点が挙げられるが、ここでは折り畳まれた薄紙を完全に広げることでその両面を同時に鑑賞することができるようになっている。このポスターのパーツの本体への貼り込みは機械でできないので手作業て行われている。また、前半のピンク色の冊子は特殊な手触りの紙が使用されているが、オフセット印刷機には通らないので、ゼミ室でレーザー印刷された。冊子中には判型のやや小さい絵画の紙葉が挿入されているが、これも機械では丁合い(ページを順番に並べること)できず、やはり人の手で挟み込まれている。厚紙表紙の背文字は、複数のスタンプで印刷されており、学生の流れ作業で行われ、全て異なる表情を持っている(動画参照)。
これ以外にも、本の細部に亘って特殊なデザインがされているが、苦労したのはこういった特殊な仕様の本を一般流通にのせるために強度や耐久性を確保することだった。そのために、20冊以上のモックアップ(実際の素材を使った形態見本)が作られ、版元や取次会社との調整が行われた。何回も困難と対峙したプロジェクトだったが、最終的には、稀有なコラボレーションを収録し、そしてその内容を反映した特殊な形態の本は「奇跡の一冊」と謳われて無事販売となった。
お近くの書店や図書館にきっとあると思います。小説とも絵本とも言い難い新鮮な「語り」のあるこの本を、どうぞ手にとってご堪能ください。[秋山伸]