- 作者情報
- 大学院芸術工学研究科卒業生 堀内 愛実
総合アート&デザイン専攻
STORY
制作ストーリー
現代建築における屋内の温熱環境や明るさ環境では一般に、できるだけ不満を持つ人が発生しないよう、空間設備や照明設備を用いて、常に高品質でかつ均質均等な環境を目指して設計される。しかし近年では、パッシブデザイン手法を積極的に活用して、自然を感じ、多様で変化に富んだ屋内環境を計画しようとする試みが増えている。ただしパッシブデザインを実践しようとする場合、自然が生み出す複雑な環境の性質や人の感じ方に対する理解がなくては、建築の設計に正しく反映させることができない。
人の感じる温冷感や明るさ感は、これまでの様々な研究によってその理論が構築され、数値化の手法が開発されている。それらは複雑で、理解や扱いには高度な知識が必要だが、近年ではコンピュータシュミレーションによって比較的容易に数値化できるようになり、建築設計に活かされる機会も増えている。さらにシュミレーションソフトによる環境の可視化は、環境工学が専門出ない建築設計者などへの理解促進も助けている。
一方で建築設計において、その初期段階から温熱環境や明るさ環境を踏まえて空間や開口の検討を行うが、環境工学的理論を考慮した実践的な設計手法はほとんど存在せず、一般に建築設計者の経験や勘に頼る程度でしか空間に対して環境の質は考慮されていないことが多い。またコンピュータシュミレーションなど高度な手法は、求められる専門性や時間、費用の問題から、初期段階で使われることはほとんどなく、設計が進んだ段階ですでに決定づいた空間の環境性能確認に使われる程度であることが多い。つまり、建築計画の初期に、建築設計者が環境工学の詳しい知識を持たなくても「直感的に」空間特性と環境性能を組み合わせ、空間の配置や開口部のデザインに活かすことのできる、実用的な方法が求められている。
本研究では、温冷感と明るさの組み合わせからなる、さまざまな環境性能と空間特性の関係について定性・定量化した、実用的な「環境特性ダイアグラム」の開発を目指す。そして実際にこれを活用して、多様な居住空間が求められる滞在型図書館の設計を行い、その検証とともに修士設計にまとめる。