- 作者情報
- 卒業生 メディア芸術学科 むつき潤(PN)
兵庫県出身。2015年に『ハッピーニューイヤー』で第76回小学館新人コミック大賞青年部門大賞を受賞しデビュー。2018年より『週刊ビックコミックスピリッツ』(小学館)にて『バジーノイズ』を連載(全5巻)。2022年より『ビックコミックオリジナル増刊』(小学館)にて『ホロウフィッシュ』を連載中(4巻まで既刊)。『バジーノイズ』はJO1の川西拓実、桜田ひよりをメインキャストに、風間太樹監督(TVドラマ『silent』、『チェリまほ』)によって実写映画化。2024年5月3日より公開。
STORY
制作ストーリー
(注)本記事は2024年7月17日神戸芸術工科大学にて行われた特別講義の模様をもとに担当教員が再構成をした記事となります(文責:泉、山本)。
『バジーノイズ』制作に至るまで
初連載にあたって、まずは連載のための題材探しを1年ほどしたのですが、当時バンドまんがの企画を編集部が検討しており、自分に白羽の矢が立ちました。ただ、今と違ってその頃は音楽に特別詳しくはなかったので、最新の音楽シーンについての取材や調査に1年ほどかけ、そこから具体的な物語やキャラクターの構想にさらに1年ほど費やし、『バジーノイズ』の連載が決定しました。
音楽という題材について取材を重ねましたが、創作描写には当時の自分を重ね合わせました。特に主人公の清澄が音楽を発信しはじめる流れは、まんがを仕事にしはじめた経験が色濃く投影されています。
『バジーノイズ』のネームについて
初の連載作品ということで、担当編集者や編集部に対し、まず自分の中のイメージやスタンスを明示する必要がありました。そのため、どういう音楽まんがにするのかというプレゼンを、企画書ベースではなく、第1話のネームという形にしながら積み重ねていったので、何バージョンも第1話があります。たとえば、初期には主人公の清澄が突発性難聴で耳鳴りを抱えているという設定もありました。ただ、そのような疾患由来と、個人主義という性格や思想では、ディスコミュニケーションのベクトルが違うと考え直し、前者の設定はなくなりました。しかし、耳鳴りの視覚化として考案した、画面にかかる黒いノイズの表現は、音楽の視覚化である白い丸の表現との対比が良いと編集部に評価されて活かしたりもしています。
テーマやビジュアル、ストーリーやキャラクターなどを含むコンセプト全体の構想を、実際に第1話ネームに起こしながら練るという方法を採ったことについて、コストなどはまったく考慮していませんでした。新人の自分が「やりたいこと」をいかにわかってもらうか、そのための最善策だと考えていました。
第1話の内容に関しては、読者がその作品を今後追うかは第1話が決めると考えているので、「こういう作品です」という宣言ができていることを重視していました。また、連載と読み切りの違いは次話へのフックの有無だと思うので、本編ではその辺りも意識的に描いていました。
『バジーノイズ』のキャラクターについて
『バジーノイズ』は物語の内容以上にビジュアル面も重要だと考えていたので、雑誌や広告、ソーシャルメディアなどから自分のイメージに近いデザインをとにかく収集し、参照しながら作品のビジュアルデザインについて探っていきました。その際、「一枚の止め絵」としてではなく「連続するコマの中の絵」として耐久性のあるものになっているか、どれぐらいの線が必要か、どんな画材が最適かなど、実際に試行しながら検討していきました。
自分にとっては、まずテーマのために物語があり、その物語のための役割を振ってキャラクターが生まれるわけですが、それだけだと役割のためのキャラクターに終始してしまいます。物語が最終的にたどり着く結論のために誕生しつつ、そのキャラクターの選択と行動自体が物語になるんだ、という二律背反を自身の中で両立させることが、血の通ったキャラクターを作るために必要なことだと思っています。