- 作者情報
- 大学院芸術工学研究科卒業生 張 孜琳
総合アート&デザイン専攻
STORY
制作ストーリー
現代は、ICTの発達により、またCOVID-19の影響もあり、人と人のコミュニケーションにおける物理的な「痕跡」は、急速に姿を消しつつある。しかし、手紙や写真が内包する時間の「痕跡」、筆跡や印影の動作の「痕跡」、その場所や時節の香りの「痕跡」などは、現状のICTのコミュニケーション環境では伝達が困難な対象である。そこで、お香の煙の痕跡に着目し、「時の痕跡」をテーマとした香器を4作品提案した。
【作品1】 コミュニケーションツールとしての「お香の印」
気持ちを伝える手紙やギフトカードに使用し、相手を思う時間が「痕跡」として可視化される「お香の印」である。例のグラデーション模様は黄色とオレンジの2種類のお香を使用し、途中でお香の位置を変えて着色している。
【作品2】 お香のけむりで図や文様をしるす香器
倒流香を使った香器のデザインである。書や絵の文鎮として香器を使用し、そのときの気持ちで選んだお香の煙の「痕跡」を短時間で「紋様」や「印」として作品の要素とする落款や署名のような印影、心象の記録である。
【作品3】 煙の色が重なり「水」のイメージが変化する香器
倒流線香を使用し、香器に香を挿し使用すると時間が経つにつれて煙が下に逆流して水色アクリルを茶色に染め、黄色と青を重ね合わせて緑になる。切り抜かれた型紙で多様な文様が紙に着色できる。
【作品4】 「滝」のように煙が下に流れる香器
煙の流れに目を向けた香器であり、流れ落ちる煙の姿を見ることができる。3つの交換パーツにより様々な煙の流れ方を鑑賞し、楽しさを得られるように工夫した。ベースは上記作品と同様に下部に空いた多数の小さな穴から煙がランダムに流れ出て、底に敷かれた紙を着色する。
以上、「痕跡」をデザインに取り入れることで人々の共感や親しみを呼び起こし人々の心に寄り添う香器4点を提案した。