敗北の心の傷み

2010年7月12日 21:45【オランダ, ヨーロッパ , 未分類

 マドリッド航空を離陸し、オランダ、アムステルダム空港に向かっています。マドリッド工科大学でワークショップをするフェリックスを訪ねて、週末を一緒にスペイン北部カンタブリア地方の港町サンタンデールで過ごしました。アムステルダム行きの飛行機に搭乗すると、オランダ航空のスチュアーデスはまずスペインチームの勝利をたたえ、機内からは一斉に拍手が沸き起こりました。12july10 001.JPG昨晩のオランダ対スペインの死闘を私は偶然マドリッドで見ることとなったのですが、全力を出し切って負けたオランダチームを見守ったオランダの人たちもスペインチームを心から祝福していることだろうとどこまでも続く、乾いた赤銅色のスペインの大地を見ながら今思っています。

 昨晩は思ったような試合展開でした。激しくボディチェックをしながら、丁寧にスペインの攻撃の芽を摘み、チャンスを探し出しては攻撃。反則ぎりぎり反対側のプレーをするオランダチームに、ブラジルのように自分を見失うことなく、サッカー王国の精神的、技術的、肉体的力を最期の最期まで示し続けたスペイン。それに対して一瞬たりとも集中力を失うことなく、冷静に戦い続けたオランダ。私はドキドキしながら、オランダを応援しながら、世界最高峰のプレーを目の当たりにすることのできる幸せをかみしめ、満喫しました。そして、7つのイエローカードとレッドカードを要し、ロベンの決定的チャンスを生みだしながらもキーパーに守りきられたオランダは、限界まで挑戦し、そして負けました。

 サンタンデールから私たちがマドリッドに戻ってきたのは試合が始まる1時間半前の7時ごろ。今回のワールドカップ、真摯な日本チームサポーターだった私は、心のどこかでオランダの決勝戦ムードに疎外感を感じていて、ホテルの部屋で見てもいいかなと実は思っていたのです。でも、車がコロン広場近くを通過した時、大きなスペインの旗をなびかせてrojaのコスチュームに身を固めた群衆が集まっていくのを見た瞬間、私の心臓はバクバクと鼓動し始め、スペインとかオランダとか日本とか関係なく、一刻も早く通りを歩きたいと思いました。急いでホテルにチェックインをして近くのバールにいくと続々と人が集まって来ていて、若者たちはすでに声をそろえて次から次に歌を歌って気勢を上げていました。応援のチームワークがこれまたすごい。アムステルダムでも美術館広場にオランダ全国から人が集まって、一面オレンジ色です。

 120分はとっても長く、そしてあっという間でした。勝利の女神がオランダに微笑んでもおかしくなかったと思うけれど、「勝つべきチームが勝った」とオランダの監督。その通りだと思います。でも、選手たちがこの敗北を消化していくのは並大抵なことではないでしょうね。きっと何度も夢に見るんだろうなあ、ロベンもハイティンガも。レッドカードをくらって、天を見上げながらピッチをゆっくりと立ち去っていくハイティンガの姿。私は泣いてしまいました。悲劇の美しさに感動して。全力を出し切って負ける。私たちは良くやったと心からたたえることができることができるけれど、すべてを出し切って、自分たちの限界と直面して負けるって、トッププレーヤーたちにとってどんなに辛いことかと思います。この事実から逃げることはできないし、一生の心の傷を作ってしまったのですから。そして、オランダのサッカーの歴史にもまた一つ辛い敗北の歴史が付け加えられたのです。誰もが、全力を尽くして2位となった選手を心から称え、2位も素晴らしいと思いながらも、「負け」は「負け」。世界NO1にまたもやなれなかった歴史的事実はやはり国民的悲劇です。今日の夕方帰国する選手たちはまずは女王様に王宮で出迎えられ、そのあと、美術館広場でのセレモニー。コレクティブに敗北の悲しみと痛みを受け止める儀式、というわけです。

12july10 02.jpg 今朝、空港から事務所に電話を入れると、二日酔いでたいへん不機嫌なスタッフが、もう一つの敗北を知らせてくれました。私たちにとっては初めての国際招待コンペに負けた、という連絡が入ったというのです。アントワープの19世紀に建てられた小さな音楽ホールのリノベーションのコンペです。かなりドラスティックなリノベーションと既存の建物の歴史に対するクリアなビジョンを必要とするプロジェクトで、これはもう私たちしかない(なんて思うことまずないんですが)、と思いっきり楽しみながら全力投球で取り組み、2か月前にプレゼンテーションをして、首を長くして結果を待っていたのでした。正直、珍しく、心から納得した作品でした。敗北は辛いですね。でも、夢に見るほどではないかな。先に進むしかありません。

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