アジアンデザイン研究所

設立趣旨

21世紀は、アジアの時代だといわれている。アジア古来の思想を現代的な文脈で蘇らせ、アジアの叡智と感性でこれからの世界を変えてゆくことは、日本に課せられた使命ではないか。

豊穣なアジアの文化遺産に眼を向け、未来に役立つ造形語法の探求を、若い人びとを交え推進すること…。

全世界に張りめぐらされたサイバーネットワークによる情報交換を活用し、「アジアの今」を感じとること…。

アジアンデザイン研究所は、今後のアジアンデザイン研究への資源共有化と社会貢献を目指す「新たなデザイン学」を、実践をふまえ、構築することを目標としている。

準備期間中に「アジアの山車」研究プロジェクトを発足させ、すでに第1回シンポジウムを開催した。日本の祭礼で曳きだされる華麗な山車は、アジア各地に見られる宇宙山信仰や山車文化と深くかかりあう。アジア文化が包みこむ豊かな造形力を再発見し、未来のデザイン語法に役立てようとする実践案の一例である。


アジア諸民族の文化の遺伝子に感応する

人間は光に向かって歩みつづける。だが、未来に向かう「前方への一歩」に気をとられるあまり、「後方の一歩」、つまり、それまでの歩みや過去の遺産を忘れがちだ。

ふりかえってみると、千年二千年、あるいは万年の単位におよぶ歴史の積み重ねこそが自分の身体を形成している。日本の民俗・文化の底流には、中国的なもの、韓国的なもの、インド的なもの、さらには東南アジアの民俗・文化が流れこんでいる。歴史をぐっと押し戻して意識を深め、話題を探ってゆくと、中国人も韓国人もインド人も、そして日本人も、みな深い共通性をもっていることに気づかされる。

アジアに行き、アジアを体験し、アジアの人びとと話すときにいつも感じることは、すこし時間を巻き戻し、対話や感性のレベルを調律してゆくと、豊かな共通性が認識できるということだ。それを土台にして奥行きのある対話を交わし、たがいの結びつきを深めることができる…という体験も少なくない。

改めて考えてみると、中国も韓国もインドも、日本という国の基層文化の形成に深いかかわりをもっている。「インド」は「仏教」を通して、あるいは「インド特有の哲学や宇宙観」などによって、古代の日本に強い影響を与えた。「中国」からは、私たちが日常使っている「漢字」をはじめ、「国家や文化の基礎をなす多くのもの」が、人とともに日本へと流入している。また「韓国」の場合も、「奈良、平安期の文化形成の多くのもの」が、朝鮮半島の人びとの手を借りてなされたといっていいほどである。さらに太平洋環流は、東南アジアほかの地域の豊かな文化をその流れに乗せて運びこんだ。つまり日本人の血脈には、「アジア諸民族の文化の強力な遺伝子が流れこんでいる」…といえるだろう。

生命力にみちた造形語法をどのように継承し、発展させるのか

いまアジアは、激動する世界潮流のなかで、大変身をとげようとしている。とりわけ中国、インド、韓国は目を見張る進展を見せている。シンガポール、ベトナム、タイ、インドネシアもこれに続いている。先進国といわれる欧米諸国のライフスタイル、物質的な繁栄を求めて開発につぐ開発をすすめ、グローバル化が加速する。アジアの人びとが前方に向かって踏み出す一歩が、強い乱流をまきおこす。

だが、自然環境や伝統文化を破壊し、ひいては地球を破滅に導くおそれも懸念される「現在の前進」をこのまま続けてよいのだろうか。より調和ある未来の建設に役立つかもしれないアジア古来の智慧や、精神性を忘れ去ってよいのだろうか。日本が「記憶バンクとして無意識に蓄積してきたアジアの文化・思想」を、今こそアジアの人びととともに吟味しなおすべきではないか。

とりわけ、「名もなき人びとが日々の生活のなかで造りあげた大自然と共存する豊かなデザイン」、「神と人、人と人を結びつける祭礼のダイナミズム」などに代表される、ぬくもりあるカタチをどのように継承し、生命力にみちた造形語法をどのように発展させ、未来につなげてゆくべきか…。

「未来に向かう前方の一歩」に、「よき文化遺産に支えられた後方の一歩」を重ねあわせる。デザインの力を軸とし、アジアの若者たちの智慧と力を交えて再考する。アジアンデザインの伝統を継承し、発展させうる若者の力を育ててゆく。

アジアンデザイン研究所の果たすべき役割は、このようなものだ、と考える。

アジアンデザイン研究所所長 杉浦康平

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