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第6回学長の庭 ゲスト:クラフト美術学科 笹谷晃生教授 (2014年4月8日)

2014年04月18日 学長の庭

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齊木
この4月から学長室に展示して頂いている現代彫刻『野景草本/群景草本/卓上景』の作者笹谷晃生教授をゲストにお迎えしました。彫刻家として活躍されている笹谷晃生教授は、この世に存在しない植物を金属を素材に生み出し、その植物群がつくる風景へと私達を誘います。本日はその彫刻を体現しながら、表現の原点をお聴きしたいと思います。

笹谷
私の表現の世界は、植物から始まっています。記憶の中にある植物のイメージを材料そのものがすでに持っている形と突き合わせながら、作品としてのカタチを作り出します。また作品が風景を生み出すというような事も目指しています。

原点は、日本の庭園にあります。
大学1年の終わりに庭園を観てまわりました。東京芸大の施設が奈良にあり、宿泊しながら2週間毎日京都と奈良の庭園を観ました。その経験が原点となっているように思います。
ものをつくりながらも空間に興味があり、植栽や石と空間の様々な関係を観ました。

材料への関心やこだわりについては、子どもの頃の体験に由来するものがあります。家の近くに警察官の射撃練習場があり、鉛の球がたくさん土に埋まっているのを拾って空き缶にいれて火にかけて溶かし、駄菓子屋さんで買った土でできた般若のお面のカタに流し込んで、鉛の般若を作っていました。ずっしりとしたところがいかにも本物という気がして金属の重たい感触にひかれ、それを宝物として持っていました。

ちょうどその頃に広がり始めたプラスチックはその軽さがすごく偽物的な感じがして好きになれなかったことも関係していたようです。

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また、毎年秋に稲刈りが終わった後に神社でお祭りがあり、いろんなお店がきていました。その中にガラス切りの付いた折りたたみ式のナイフを売る店があり、店のおじさんがそのナイフで板ガラスや一升瓶を見事に切って見せて、そのナイフを売っていました。それが何とも見事で見惚れるほどで、ガラスを切る独特の世界に曳かれました。

金属やガラスへの興味は、そうした事が原点になっています。

小学生の頃は、木造の校舎で過ごしました。当番で教室の外の掃除をする時には、校舎の北側の地面には一面に苔が生えていてそれがとてもきれいでした。植物への関心も、また子どものころのこのような幾つかの体験がもとになっています。

じつは大学の時には、彫刻で何を作ったらよいのか解らなかったんです。卒業してからは、彫刻で使う材料について知るために幾つかの工場で働きました。その頃にたまたま園芸店でも働く機会があり、そこで植物に興味を持っていたことにあらためて気づき、自分の表現したい世界を見つけました。

話は変わりますが、子供の頃に原点があるものとしては他に紅茶や珈琲への関心があります。そこから今の趣味は紅茶や珈琲なのですが、紅茶も珈琲も祖父が好きで、特に珈琲はMJBの缶入りのものをネルの袋で濾して入れており、そのときに部屋に漂う香ばしい香りをいまでも記憶しています。そんな事から私自身も珈琲を焙煎して飲んだり、紅茶や中国茶も様々なところへ行って気に入ったものを買い求めて楽しんでいます。

齊木
最も感動されたお茶は?

笹谷
中国の祁門(キーモン)紅茶の祁門毛峰というお茶でした。香りだけでなく旨味もありました。それは飲むと幸せになるお茶でした。一般的に中国茶のよいものは香りに重点があり、日本茶のような旨味はあまりないものが多いのです。なかなか良いものに出会う機会は無いけれど、出会えれば本当に幸せになります。最近、学生から台湾に行く前に台湾茶について教えてほしいと言われ、少し古い情報ですが話をしたら高山茶をお土産に買ってきてくれて、これがすこぶる美味しいお茶でした。

齊木
私は、台湾の14の少数原住民族の集落を訪れたことがあります。茶摘みをしている風景にも何度も出会いました。深い闇に包まれた山上の風景は、現世では無い感じですね。二度と同じお茶には出会えませんし、そこの水と茶葉で作ったお茶の感動は何度もありました。

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笹谷
台湾では、台北の郊外の猫空がお茶の産地で、山の上に沢山の茶園があり、山の斜面には茶園が開いているお店があって、そこでのんびりと山を眺めながら台湾茶を飲めるんです。のんびりと一日過ごせます。

齊木
日本には。

笹谷
そういう贅沢はありませんね。

齊木
笹谷さんがつくられる空間のとらえ方は、その影響を受けていますね。単なる庭ではなく一つ一つに意味があり、良い関係を生み出しています。この作品の展示も、ロビーでの展示と学長室での展示では、全くその風景が違います。植物は周りの環境を得て育ちます。多くの人は、はじめその展示に気づきません。この彫刻は、場所と同化してより植物的ですね。

笹谷
関心を持たないと気づかないかも知れません。植物を育てようとする場合も、ごく自然に注意が払えないと育てられないんです。それと似ているのかも知れません。

齊木
空気や五感が影響しますね。この作品も、余分なものを徹底的にそぎ落としている。植物も余分なものはつけておらず、生きる為の合理的な要素がある。この作品も一つ一つが構造化されていて、要素に分解して合体して全体像を作られていると感じます。植物の形に興味はありますか。

笹谷
もちろんあります。働いていた園芸店の温室に蘭がありました。蘭の多くは木の上に着生して空気中に根を出して窒素や水分をとっています。その形態には驚きました。もともと熱帯系の植物はルソーの絵に引かれ、興味を持ちました。特に熱帯系の植物が好きでした。蘭を見てその不思議な根が面白かったです。
齊木
根があるからこそ生きている。

笹谷
彫刻を立てるために台座をつくるのではなく、それを植物の根のカタチに置き換える事でこの作品が生まれました。初期の頃は細い根まで造形していましたが徐々に細かいものはいらないとシンプルなカタチに変わってきました。

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齊木
この作品を見て、実際には無いけど、どこかで見た思いを巡らせました。もしかしたら将来、変化に応じてこういう植物が生まれるのではないかと、作品を見て思いました。
クリエイティブな制作活動をされていると思いました。作品はこれからも生き続けて新しい形が生まれてきますね。

笹谷
いま一番実現したいのは、美術館でのインスタレーションです。巨大な彫刻の庭園を作りたいなと思っています。実際の植物が多様なように、多様な作品で一つの大きな庭園を構成したいです。しかし彫刻庭園という言葉はイサムノグチがすでに使っているので、私は自分のインスタレーションを「景観の彫刻 −庭− 」などと名付けたりしていますが、もっと相応しい呼び方があればと思います。

齊木
ひとつひとつの素材は有機的で、全体の持っている空気感や生態の中に入っている感じがします。これからまた、できれば建物の中ではなく、ウッドデッキ広場とか、キャンパスの屋外に植物では無い植物が植物化している姿が見れたらと、期待を持ちました。キャンパスに「楷の木」を植えて思いましたが、冬は針金のような枝から、春突然目が出始めます。その芽が出てくる瞬間に季節のイメージが一転します。

笹谷
四季を感じさせて非常に良い木ですね。

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齊木
神戸にきた「楷の木」が新しい物語をつくってくれたらと思っています。話は変わりますが、学生達は先生たちの制作活動を直接見れていいですね。フィギュアコースの学生は増えましたか?

笹谷
年にもよりますが徐々に増えています。今年のアート&デザイン特別講義には海洋堂の社長が来て下さいます。非常勤の先生が学生を海洋堂の見学に連れて行ってくださった時に、社長が学生の作品のダメ出しをされなかったそうです。印象が良かったようです。1期生が滋賀県長浜市にある海洋堂フィギュアミュージアム黒壁で働いていて、活躍しています。上海や台湾にも出張に行っていて、その活躍している印象もあるかも知れません。


齊木

活躍する卒業生や学生達のフィギュア作品をみると、作品では自分の姿をつくってますね。先ほど先生にお伺いした自分の体験が自分を表現している。自然にそうなっているんですね。


笹谷

そうかも知れません。今、フィギュアは面白くなって来ています。作品のレベルも年々上がってきています。


齊木

私達教員も若い学生達からの刺激を受けています。いつもお互いを刺激し合える大学でありたいと思います。
今日は、ありがとうございました。