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第4回『学長の庭』2010年11月17日(水)インダストリアルデザイナー:高橋由佳さん

2011年01月07日 学長の庭

高橋由佳さん

神戸芸術工科大学工業デザイン学科卒業。ヘルシンキ芸術大学修士号取得。
Harni-Takahashiデザイン&建築事務所協同主宰

学長:
ようこそ神戸芸術工科大学へ。私は、卒業生が社会に旅立ってから大学に戻ってきていただき、お会いすることが楽しみなんです。今、神戸芸術工科大学は、日本のデザインの大学から、世界の基準にあう大学を目指しています。高橋さんには、昨年9月ヨーロッパ芸術系大学訪問の際ヘルシンキに訪問しお世話になりました。その時にもお話しましたが、今年の4月に神戸芸術工科大学はミラノサローネに出展しました。その後、パリのファッションショーでも紹介され、11月にサンテティエンヌにも出展します。
高橋:
サンテティエンヌは、私も出展したことがあります。
学長:
あなたや後輩たちもインダストリアルデザイナーとして活躍し始めましたね。高橋さんは、工業デザイン学科プロダクトデザインコースを卒業して何年ですか?
高橋:
14年です。
学長:
初めの職場は、どのように見つけましたか?
高橋:
会社説明会で、見つけました。デザイナーを募集している会社が少なくて。2つ内定。1つは大阪市内で立地条件もよかったんですが下請けの会社。三木の会社は地場産業で下請けではなく自社製品を開発から手がけていることに魅力を感じて選びました。
学長:
その後、ヘルシンキへ留学したきっかけは?
高橋:
逸身先生に相談した時の一言です。ヨーロッパを希望していて、オランダとストックホルムのコンストファック、今のアールト大学であるヘルシンキ芸術大学を考えました。スウェーデンとフィンランドに合格して、選ぶ時も逸身先生のお勧めで、関西日本・フィンランド協会で奨学金を得て行きました。
学長:
良かったですね。
高橋:
だれも反対しなかったんです。だからこれは自分が努力して留学するしかないなと思いました。
学長:
覚悟が大変だっただろうと思いますが、あなたのスタイルは、新しい仕事をする人の新しいスタイルだと思いました。大学院でも苦労されたでしょう。

高橋:
それほど、怖がってたほどでもなかったです。6年働いた経験もあり、また神戸芸工大の授業の内容は、レベルが低いものではなかったと思いました。学部の授業内容は、内容の重複する部分もありました。その分はすっと入っていけました。ただ、学生の基礎レベルが高かったです。優秀な学生が集まっていて、高いレベルの中でお互いに刺激を受け合いながら高い完成度のものを仕上げていくのがよかったです。
学長:
チューリッヒやロンドンなどのヨーロッパの大学院では、先生か学生かわからないほど、年齢の幅が広いでしょ。あなたが入学されても、広い幅の中で良かったでしょう。日本の大学もそうなったら良いなと思います。クリエイティブな仕事の現場には世代や国を超えて、1種類の人ではなく、いろんな多様な仕事の経験をした人たちがいたら良いなと思います。

高橋:
私もそう思いました。それによって自然とレベルが上がり、作品の完成度が変わってくるんですね。若い学生からは斬新でフレッシュなアイデアやセンスが出て、経験を積んだ年上の学生の技量と合わさっていいとこ取りです。そうしてお互いにスキルを上げて行くんですね。
学長:
だから、堂々と議論するんですね。
高橋:
フィンランド人は、激しいディスカッションはしませんが、黙っているなと思っていたら、鋭く突っ込んで、自分の考えをしっかり主張します。

学長:
今日の特別講義のあなたが語るスタイルは日本でやっていても変わりませんか?空気感が何かヨーロッパの人達と会話している感じがしました。
高橋:
実はあまりなれていない日本語でのプレゼンテーションでした。大学院ではたくさん英語でのプレゼンテーションをする機会があり、卒業後もそうなので英語でなら、少し慣れてきているのですが。
学長:
今日の特別講義では、ひとつひとつの仕事をそれまでの仕事と組み合わせて紹介されました。間のあけ方が良かったです。感動しましたよ。仕事内容ですが、あなたとご主人のペッカさんとは国が違って年齢も違っていてもこんな素敵なコラボレーションがあるんだなと思いました。ペッカさんも由佳さんもそれまで別の世界で生きてきて、全く異質な型をもっている。その型があったからこそ、アイデアを出し合った時に新しいものが生まれたのだと思いました。日本とかフィンランドとか超えたデザイナーとしての出会いの絶妙さを感じました。デザインを考える時に、かなり自分のもっているものをそぎ落としながらシンプルな姿勢・素材をねらってらっしゃるのかなと思いました。結婚されたお二人の出会いとデザインの姿勢についてお聞きしたい。
高橋:
初めてペッカに会った時、ある意味衝撃的でした。デザインの核の部分では同じ考えを共有するのですが、私は日本で勉強したので、資本主義的な考え方が強く、デザインは商業活動の一部という考えを持っていました。売れることがデザインの評価のひとつという思いがありました。ペッカは、ビジネスで成功するかどうかはどうでもよく、私の資本主義的な価値感が理解できなかったので、互いに反発もしました。彼にとってデザインは、人間の生活向上や幸せな生活を実現するために挑戦していくもので、ビジネスでどれだけ成功するかどうかなどは、僕の問題じゃないと。
学長:
ショックだったでしょ。
高橋:
はい。現実はそうじゃないよね、とか思ったりしました。ただ、一緒に仕事をしていく中で、フィンランドではそういう考えでもやっていける体制があると気付きました。
学長:
地球社会の人を幸せにすることも大切ですよね。売れることは悪いことではなく、収益が社会へ還元されることによってさらに人々を幸せにする。
高橋:
私たちは、お互いに違う観点がありますが、核は同じなので、一緒に仕事をしていく中で、デザインする意味はそこにあると思います。普通にものをつくるんだったら足りていて、良いものを作ることによって、人の生活環境が少しでも向上すれば思います。二人の間ではベースの哲学として、より少ない資源の使用でより多くの効果のある製品を作る事がデザインテーマです。日本にいた時は、フィンランドの事を知らず、少しは勉強していきましたが真っ白な状態で行きました。ヨーロッパでは日本とフィンランドのデザインは近いといわれているんです。フィンランドでは、日本とフィンランドのデザインって似てるよねってよく言われました。なぜかと考えた時に、両方ともエステティック・審美性が貧困からきているのではないかと考えました。フィンランドは現在まで王国になったことがなく、王朝文化のようなきらびやかさがない。それより、農家や自然に巻き込まれた近くの素材の調和による美しさがあります。日本は皇族がありますが、天皇家のわびさびの美学は、フランスやイタリアのそれとは違います。自然の中から生み出された美しさが根底にあるから、素材感や自然との関係を大切にする姿勢に深いものがあるのかなと思います。素材感・シンプルさというのはとても重要で、デザインの過程でそれが必ず必要なものでない場合はそぎ落としていく形をとっています。
学長:
さて、今回ペッカさんがまとめられた本を紹介してもらえますか。
高橋:
本を書くきっかけは、ペッカが記号学に関しての展示会をしてほしいという依頼をうけ、抽象的な記号学を考える前にその基礎となる”物”とは、そしてどういった類いの”モノ”について話しているのかというところから考え始めたそうです。どのような学問でも、例えば植物などでもそうですが、まず分類・体系化する事によって頭の中が整理され、それをより深く考察する事ができるのです。ペッカは建築も勉強しているので、建築というのはその長い歴史の中で分類され体系化されているのに対し、工業デザインというのは産業革命以降の新しい分野であるので体系化された研究というのがあまりなされていないということに気付いたそうです。
学長:
今日は初めに由佳さんの作品が紹介され、その後本の紹介だったので、かたちを表現する新しい道具を作られたなと感心しました。本の内容からは、都市や建築まで幅広くイメージさせてもらいました。
高橋:
大学院の専門は、インダストリアルだったんですけど、カリキュラムでは都市計画もありました。ものは、環境の中にあるということを考えた上でデザインをしなければならないという考えが強くあります。ペッカと仕事を始めて、ますます、建築デザインなどもお手伝いするようになって、ものづくりは、「スペース」の中にあるものなんだと意識してデザインに取り組むようになりました。

学長:
芸工大は、デザインの分野が全て揃っているけど、分野を超えてうまく共有できるような仕組みをつくらなければならないと思いました。それを考えると、これから高橋由佳さんとご主人のペッカさんにも大学教育にかかわってもらえればいいなと思います。これから活動の予定は?
高橋:
来年にヘルシンキのデザインミュージアムで二人展を行います。
学長:
そうですか。僕が考えているデザインの課題は、直接ヘルシンキの展覧会でお二人に問いかけます。
高橋:
それは良いですね。彼も彼の思いを自分で語ることができると思いますので。
学長:
これからのますますの活躍を期待しています。今日はありがとうございました。ヘルシンキで再会しましょう。